海苔屋 神戸英一郎の話-10

時々、黒い巻き寿司を節分などに買って食べると、口の中で大半溶けて、のどを通過しているのに、ガムのように噛んでも噛んでも溶けない「海苔」がある。 

これは、色が真っ黒で光沢のある厚手の「海苔」はそれぞれの用途に応じて利用されるので、同じ「海苔」でも違うものになるのだ。

 このように旨いという点において最も関係が深いものが、「海苔」の生年月日なのだ。 


●海苔の産地名=生まれ故郷を知ること 日本列島は、南端は北緯20.25度から、北端は北緯45.33度まで。


実に太平洋上2,788.895キロメートルの渡って長く延びており、しかも、北は青森から南は九州全域が温帯多雨の高温貴校であり、また北海道は亜寒帯で、夏は冷涼気候で、沖縄地方は四季問わず高温多雨の地域である。

これを見るとき、日本列島はなぜに変化に富んだ季節と気候を有し、その海岸線の長さは、太平洋岸と裏日本海を合わせれば、アメリカ合衆国に匹敵し、また中国の沿岸よりも長いのです。

日本全国の緯度が違うということは、各地それぞれ気候が異なり気候も違うので、同時期に生産される自然の産物は海も山も皆異なったものが各地で収穫される。

それは、桜前線が南から北海道に北上るすことで理解ができる。

このような日本列島には「海苔」の生産地も北から南までの間で多数の産地があります。

ちなみに昭和八年で見ると、

①愛知

②三重(伊勢)

③千葉

④東京

⑤宮城

⑥岩手

⑦広島

⑧山口

⑨愛媛

⑩福岡

⑪大分

⑫熊本

⑬北海道

等が主な産地名である。




これは現在の産地とは大きく変わっている。

それは戦前から戦後更に昭和三十五年頃より養殖技術の発展と、海岸線の地形等の変化によるものが原因となっている。

主な産地だけでも十三ヶ所あり、もっと詳しく調査すると二十や三十ヶ所では終わらないほどである。

そしてその地方特有の風味と味を楽しむ郷土愛は、お土産や贈答用として大切に守られてきた。 だから「海苔」の産地の人々は、我が前の海でできる「海苔」は日本一と信じているため、他地方産の「海苔」を出しても、すぐに見わけて「好きな味ではない」と嫌われてしまうのだ。

ということは、各産地それぞれの異なった味や風味があることを証明していることになる。

このことは「海苔」の産地でない地方の人々こそ、各産地の味の上下を見分けることが出来ることになるが、そんな人たちは失礼だが「海苔」を見極めるほど「海苔」に関心がないのだ。 


そのため、毎年「海苔」の生産時季に各産地の一番「海苔」を食べ比べることが必要なのだ。


これは一般消費者の方々には大変に難しいことではある。

「海苔」の商売をしている私でも中々難しいことなのだ。

生産者に尋ねても、自分の「海苔」が一番だと思っている人々なので、他産地の「海苔」と比べるなどといったら怒られるだろう。

しかし、私はなんとかして少しでも多くの産地の品を集めて、毎年有志の方たちと食べ比べを行っている。

お陰で、今年で十年ぐらいだが、参加者の皆さんも多少とも区別がつくようになったと喜んでおられる。


さて、結論と参りましょう。

「美味しい海苔」とはどんな「海苔」なのか?


①生年月日を知ることによって、柔らかさと味の上下がわかる。

②生れ故郷を知ることによって、その土地柄やそれぞれ地方の味を味わうことができる。 


この二項目が「海苔」を口に含んだときに口の中いっぱいに聞こえてきたら、即ち正解といえるだろう。

実に明快な答えになったが、皆さんには何のことやらサッパリわからんようになったかも知れませんナッ!


つづく

榮屋海苔店

ひとつ、ひとつ手をかけ「美味しい」を届ける手づくり海苔店。 大阪の下町にある小さな海苔店です。 「紫菜(のり)」の本来の美味しさを届けたいという想いで、1948年に開業いたしました。