海苔屋 神戸栄一郎の話-5
八月の伊勢湾は眩しくキラキラ光っていた。
緑芽の品種を養殖している答志島の生産者を訪ねる船中であった。
日焼けした二人の生産者と対面し、紹介者の先生とのことを話しているうちに、三人共新しい希望に満ちて、名産の伊勢海老のご馳走に舌鼓を打ち、夕暮れの夏海の帰路にいた。
この答志島は、数年前に訪れたことがあった。
湾協にお願いして、一番摘みの「海苔」を入手したことがある。
しかし、期待していた品質の「海苔」が得られなかったのだ。
さてその年の十月の下旬、いよいよ大望の待ちに待った新品種「緑芽海苔(みどりめのり)」の一番摘みが答志島から送られて来た。
初めて対面したこの新海苔は、赤味勝ちの黒い色をした薄い「乾海苔」であった。
「乾海苔」というのは、市販されている二十センチ×十九センチほどの天日乾燥した四角い「海苔」のこと。
早速、「焼き海苔」に加工して口の中に入れて・・・驚いた。
舌の上でトロっととろける。
甘い! 甘い!!
そして口の中に残香がほんのりとある。
これが「海苔」か?
これが「みどり芽海苔」か?
私は本当に躍り上がって喜んだのである。
私はこの「緑芽海苔」を原料とし、製品つくりに熱中した。
各種適当に焼き上げた「海苔」を
①「焼き海苔」=これは一枚の海苔を六等分にしたもの
②「手巻き海苔」=おにぎりやら色々と他の食物を包んで食べやすい様に三角形に切断したもの
③「針海苔」=やわらかな新芽の焼き海苔を極細に裁断したもの
④「海苔茶」=香りがよく出る様に焼き上げて小さく切断したもの
各種類の「海苔」を兼ねて考案した特殊包装にして調整した。
ここに『栄屋海苔店』が目指す「手づくり海苔」が生れたのです。
つづく
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